CONTRIBUTION

キーボード・マガジンとカシオ電子楽器
冨田勲とコスモシンセサイザーから始まったカシオ・シンセの歴史

キーボード・マガジン1980年11月号では、冨田勲が表紙に登場。
2020年で40周年を迎えるCASIOの電子楽器。今やその名を知らない人はないCasiotone(カシオトーン)だが、1980年の登場は衝撃的だった。抜群のコストパフォーマンスと高性能により、それまで専門家向けの高価な楽器だった電子キーボードを一気に身近なものにし、この時代からキーボード人口が一気に増加した。キーボード・マガジンの創刊は、その前年1979年で、創刊特集は「80年代はキーボードが主役だ!」だった。
  そんなカシオトーン旋風の真っただ中、CASIOがシンセサイザーの巨匠である冨田勲の協力の元に本格的なシンセサイザーの開発に着手した、との報が流れる。冨田勲は、1974年に発表のアナログ・シンセサイザー多重録音によるアルバム、『月の光(Snowflakes Are Dancing)』の世界的大ヒットであまりにも有名だが、1950年代から始まる作曲家としてのキャリアの初期から、電子音響を積極的に取り入れ、常に最新のサウンドの使い手であることでも知られる。そんな冨田勲と、CASIOの先進的なデジタル技術のコラボレーションは、キーボード・シーンの大きな話題となる。
  キーボード・マガジン1984年11月号には、さっそくその成果が掲載されている。記事は、同年9月、オーストリアのリンツで行われたアース・エレクトロニカにおけるコンサート『The Mind of the Universe』のカラー2ページにわたるレポートだった。コンサートはドナウ河沿いの屋外会場で8万人の観客を集め、13チャンネルの立体音場でトミタサウンドを鳴り響かせるという大掛かりなもの。中心には、冨田勲が乗り込む透明なピラミッドが設置され、すべての司令塔になっている。
そしてそのピラミッドの中には、CASIOが開発した最新のシンセサイザー・システム、コスモシンセサイザーの威容があった。コスモシンセサイザーの心臓部は、「SPU」と「PDU」という2種類の音源モジュールになる。「SPU」はPCMサンプラー、「PDU」はPD音源によるデジタル・シンセサイザーで、さらにそれらを制御するコンピューター・ユニットには、デジタル・シーケンサーや手書きで波形を入力する機能も装備する。世界的にも当時最先端の音楽環境を実現し、今のDAWの概念を一早く先取りした内容を有していた。この号には、コスモシンセサイザーを使って作業する同氏の姿とともに、市販化が進んでいるとの記事も掲載され、読者の期待はいやが応にも高まった。その紙面が読者の元に届いた翌月の1984年11月、CASIO初の本格的シンセサイザー、CZ-101が発売される。音源部はコスモシンセサイザー直系のPD音源を搭載。最新鋭のフル・デジタル・シンセサイザーでありながら、ミニ鍵盤の採用による低価格を実現し大反響を巻き起こした。さらに翌年には、標準鍵盤のCZ-5000も発売し、シリーズを充実させていく。デジタルでありながら音作りがしやすいCZシリーズはプロの定番機材になり、キーボード・マガジンでも、喜太郎、原由子、難波弘之、ヴィンス・クラーク(イレイジャー)らが使用していることを紹介している。
  コスモシンセサイザーのもう1つのモジュール、PCMサンプラーについて、冨田勲は1985年11月号でのインタビューで、「カシオのコスモシンセサイザーは14kHzまでのフラットな周波数特性を実現していて海外製品を大きく凌駕する」と、その先進性を語っている。そしてそれは、1987年にFZ-1として商品化された。完全な16ビット処理、36Khzのサンプリング・レート、2HDディスク・ドライブの搭載というスペックは、当時の最高水準で、その高音質が幅広く支持された。キーボード・マガジン誌上でも、トニー・ケイ(イエス)、デヴィット・ブライアン(ボン・ジョヴィ)など、さまざまな来日記事の中で、その姿をレポートしている。

樫尾俊雄発明記念館に展示されているコスモシンセサイザー。

撮影:八島崇

この時期のCASIOというと、高橋ユキヒロの名前も忘れることができない。YMOのドラマー/ボーカリストのキャリアを持ち、時代を象徴するアーティストでもあった。1986年2月号で紹介されたツアー記事では、特別仕様のCZ-5000(スティックが置けるようにデザインされている)の他にも、エレクトロニック・ドラムの音源としてコスモシンセサイザー、さらに彼自身がサンプルを提供したCASIOのリズムマシンRZ-1の使用を伝えている。冨田勲とともに、CASIOは日本のシンセサイザー音楽を代表する2人を協力者に得て強力な製品開発をしていたことが、当時の記事からもうかがえる。
CZシリーズは、1988年にVZシリーズへと進化し、PD音源を発展させたiPD音源を搭載した。キーボード・マガジン誌上では、デジタル・シンセの音の薄さがしばしば問題になっていた頃だったが、VZの分厚いサウンドは好評を博した。
こういったCASIOの電子楽器技術は、その後も2018年発売のハイグレードなキーボードCT-Xシリーズ、2019年発売のカシオトーンCT-S200や、Priviaシリーズ、CELVIANOシリーズをはじめとする電子ピアノへと受け継がれていった。CASIOの先進技術は、これからもさまざまなキーボーディストとともにあり、キーボード・マガジンを賑わせていくことだろう。
(文:高山博)